【ハラール知識】酢の使用は許されるのか、許されないのか
こんにちは!
クウェートのよしくんです。
今回は酒からできる酢に関しては許されているのかどうかについてです。
以前、お酒に関しては一定量で酔っぱらってしまう飲み物は禁止が主流だという話をしました。
ハナフィー学派だけハムル(葡萄酒)のみ禁止で、飲み過ぎなければOKでした。
ではそうなると酒から造られるお酢はどうなるのかというのが問題ですよね。
その点についてユースフ・アルカラダーウィー師が回答したファトワー(法勧告)を見ていこうと思います!
お願い・本サイトはムスリムの方や飲食店の方が役立つようなムスリムの食事規定について紹介するサイトです。
・もし記事内の記述に誤りがありましたらぜひご指導ください。
・ムスリムの方や飲食店の方が役立つようなファトワーをご存知でしたら教えていただけると助かります。
酒が自然に酢酸発酵した酢は合法(イジュマー)
まず最初に、酒が自然に発酵した場合ですね。
これに関してはイジュマーですので全く問題ないです。
法学者間でも相違がないということですね。
意図的な行為での酢酸発酵の場合は両方の意見が存在する
自然ではなく、意図的に酢酸発酵させた場合は、法学者内でも両方の意見が存在します。
ダメと言う人もいれば、OKと言う人もいる感じです。
ちなみに、ユースフ・アルカラダ―ウィー師は合法であると結論付けています。
まずは許されていないと考える説を中心に見ていきましょう。
意図的に酢酸発酵させた酢は合法ではないと考える説
聖典クルアーンには以下の言葉があります。
この「これを避けなさい」という言葉の通り、酒は避けなくてはいけないものです。
そのため、酢製造が酒に近づくことに当たり、避けるべきことではないかと考えるわけです。
他の例では、アブー・ダーウードが収録したハディース(預言者言行録)の、アナスが伝えるものでは、以下があります。
ここから、酢の製造が孤児に対して勧められていない様子が分かります。
アブー・ダーウードとは9世紀のハディース学者。スンナ派の6大ハディースと呼ばれるうちの一つ『スナン・アブー・ダーウード』を著す。
また、二代目カリフ(預言者の代理人)であるウマルも以下のように言っています。
この「アッラーが最初に発酵させ給い」とは、人口処理せず自然に発酵させたことを指します。
ただ、イスラームでは聖者有謬説(「聖者」と呼べるような人であっても誤ることがあるという説)をとるため、例え二代目カリフのウマルであっても、解釈に関しては間違っていることがあります。(実際に一般市民に反論され、誤りを認めた例もあります。)
発酵させた酢は賛否両論?
ここまででは発酵させた酢を製造することも食することも禁止されているという説があることが分かりました。
しかし実際のところ、酒の中に何かを入れて酢酸発酵した場合に関しては、意見が分かれています。
酒の中に何かを入れて酢酸発酵した場合シャーフィイー派の学説:清まらない
イブン・ハンバルの説:清まらない
アブー・ハニーファの説:清まる
マーリク学派の説:清まる(一番有力な説)
ここまでの流れでどうして「清まる」の説が出てくるのかが重要ですよね。
では、ユースフ・アルカラダ―ウィー師の回答を見ていきましょう!
あるものから別の物に変わった時、それに対する規定を変わる
ユースフ・アルカラダーウィー師はイスティハーラ(変質)という考えを採用しています。
イスティハーラ(変質)とは物の形質や性質が変化すること。イスティハーラによって、その物質の概念が取り換えられると考えられている。例えば、ブドウ自体は全く問題なく食べたりジュースにして飲むことができるが、発酵させてお酒となった場合は禁止扱いになる。
分かりやすい例だと、ブドウは許されたものであることは明らかですが、それが酔わせる物質に変わると禁止扱いになります。
逆もしかりで、変質して酔わせる性質が無くなった場合、禁止の性質もなくなると考えることができます。
〇:ブドウ
×:酔わせる酒 ←葡萄が発酵
〇:酢 ←酒から変化
また、そもそもお酒のほうが酢より貴重で高価だと考えられ、お酒から酢を作ることはありそうにないともカラダ―ウィー師は言っています。
この論理はハナフィー学派からのもののようですが、非常に強力な論理のようです。
というのも酢には食用、薬用などの利益があるからです。
これは私見ですが、イスラーム法学では利益というものも重視されていまして、法原則として「大きな福利を得るために小さな害悪は多めに見られる」「慣行、社会行為の基本は、理由と利益の考慮である」というものがあったりします。酩酊作用の消えた酢に関しては利益のほうが大きく考慮されるように思います。
ユースフカラダ―ウィー師も、「汚れと禁止の理由は酩酊作用であり、それは既に消滅しており、法規定は[禁止の]理由の存在と不在に相関するからである。」と述べています。
また、このイスティハーラ(変質)については多くの著者からハディースとして記されている皮鞣からの類推もできます。
死体の皮は不浄なものであっても、鞣すと清まると考えられるのですね。
加えて、多くの著者からハディースとして記されているものとしては、
という、その原料が何かの詮索を求めない言葉もあるのです。
また、酢の製造に関しては、アル=クトゥルビー師の論証を引用しています。
ウマルのワインビネガーの食用禁止については、前述の通りイスラーム法学者の多くが反対したことから「篤信からの禁止であった」「酒に近づく習慣からウンマ(イスラーム共同体)を護るため」としています。
つまり、避けるほうが篤信であるが、禁じられているとは言わないとのことです。
アブー・ダーウードのアナスのハディースについても、ある特定の状況下の問題について述べているのであり、一般論ではないため、一般原則が優先されるとしています。
その後、そもそも酒が汚れているものなのか、明確な根拠がない旨も論証し、ファトワーをしめています。
カラダ―ウィー師のファトワーまとめ
ユースフ・アルカラダーウィー師のファトワーをまとめるとこのようになります。
酢が合法である理由・酢に変わった時点で酒とは別物扱いになる(イスティハーラ)
・酢には食用、薬用などの利益がある
・酩酊作用は消失している
・酒は禁じられているが、汚れているという明白な典拠はない
今回の法学的見解の出典
今回のユースフ・アルカラダーウィー師の法学的見解の出典は、日本サウディアラビア協会出版『マイノリティ・ムスリムのイスラーム法学』内に収録されている、邦訳『ムスリム・マイノリティ法学』ユースフ・アルカラダーウィー著になります。
さらに詳しく知りたい方はそちらを参照することをお勧めします。
ぜひご参考にしてくださいね!
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